ラヴズオンリーユーとは?

ラヴズオンリーユーは、日本競馬史にその名を刻んだ稀代の名牝です。2019年のオークス(優駿牝馬)を無敗で制し、その後に故障と戦いながらも国内外の最高峰レースで活躍。特に2021年には、ドバイシーマクラシック3着の後、アメリカのブリーダーズカップフィリー&メアターフ、香港カップを制覇し、日本調教馬として史上初となる同一年に海外G1・3勝という偉業を達成しました。通算で海外G1を4勝(ジャパン・スタッドブック・インターナショナル発表)という金字塔を打ち立て、その輝かしい功績は多くの競馬ファンに深く記憶されています。

ラヴズオンリーユーの軌跡:デビューから引退まで

デビュー前の背景と血統

ラヴズオンリーユーは、競馬界のサラブレッド生産において最高の血統を持つ一頭です。父は言わずと知れた「七冠馬」ディープインパクト。その類まれな才能は、多くのG1馬を輩出し、日本競馬の血統図に深く影響を与え続けています。母はアメリカG3勝ち馬のラヴズオンリーミーで、サンデーサイレンスの血を持たない貴重な繁殖牝馬として注目されていました。ラヴズオンリーユーは、その母から受け継いだタフネスと、父ディープインパクトの瞬発力を併せ持つ、まさにサラブレッドの結晶と言える存在でした。

さらに、母ラヴズオンリーミーの産駒からは、すでに多くの活躍馬が出ていました。

これらの血統背景から、ラヴズオンリーユーがデビュー前から大きな期待を集めていたことは想像に難くありません。

2歳〜3歳(クラシック期)

ラヴズオンリーユーは、2018年11月に京都競馬場の芝1800mでデビュー。初戦を快勝し、その素質の片鱗を見せつけました。続く2戦目は2019年1月の京都での3歳未勝利戦、ここも楽々と勝ち上がり、破竹の連勝を飾ります。3戦目には、クラシック戦線を見据え、桜花賞トライアルである忘れな草賞(L)に出走。ここも危なげなく勝利し、3戦3勝で無敗のままオークスへと駒を進めます

迎えた2019年5月19日の第80回オークス(優駿牝馬)。ラヴズオンリーユーは無敗の勢いと、その血統背景から2番人気に支持されました。レースでは中団やや後方を進み、直線で外に持ち出すと、馬群を割るように強烈な末脚を発揮。先に抜け出したカレンブーケドールをゴール前で差し切り、デビューから無敗の4連勝でG1タイトルを獲得しました。この勝利は、ディープインパクト産駒としても2017年のソウルスターリング以来となるオークス制覇であり、その後の活躍を予感させるものでした。

しかし、オークス後は右前肢に骨折が判明し、長期休養を余儀なくされます。秋のクラシック戦線、特に秋華賞への出走は叶わず、復帰は翌年の4歳になってからとなりました。

4歳以降(国内G1での惜敗と海外挑戦の萌芽)

4歳となった2020年、ラヴズオンリーユーは復帰戦の鳴尾記念(G3)で2着に入り、健在ぶりをアピめます。その後もヴィクトリアマイル(G1)3着、京都記念(G2)2着、札幌記念(G2)2着、エリザベス女王杯(G1)3着など、G1や重賞で常に上位争いを繰り広げますが、なかなか勝ち切ることができませんでした。この時期のラヴズオンリーユーは、勝負どころでの一押しが足りないように見えましたが、これはG1で戦える高い能力と、どんな相手にも通用する安定感の証でもありました。この国内G1での惜敗の数々が、後に彼女を海外へと向かわせるきっかけの一つになったのかもしれません。

歴史を刻んだ海外遠征:世界を舞台にした輝き

2021年 ドバイシーマクラシック

2021年、ラヴズオンリーユーは初めての海外G1挑戦として、ドバイシーマクラシック(G1)に挑みました。鞍上には香港での経験も豊富なクリストフ・ルメール騎手を迎え、世界の強豪相手に3着と善戦。この経験は、彼女が世界のトップレベルで通用する可能性を示し、その後の快進撃へと繋がる重要なステップとなりました。

2021年 ブリーダーズカップフィリー&メアターフ

ドバイシーマクラシックの後、国内での調整を経て、ラヴズオンリーユーはアメリカのブリーダーズカップフィリー&メアターフ(G1)への挑戦を決定します。このレースは、北米競馬における秋の祭典であるブリーダーズカップ開催の重要な一戦であり、日本調教馬がこの舞台で勝利した例はありませんでした。

レースは2021年11月6日、デルマー競馬場の芝2200mで行われました。鞍上には世界的名手、川田将雅騎手を迎えました。ラヴズオンリーユーは道中、中団やや後方を追走。直線に入ると、抜群の手応えで外から一気に加速し、先行馬たちを差し切って見事に優勝しました。この勝利は、日本調教馬として史上初のブリーダーズカップ優勝という歴史的な快挙であり、世界に日本競馬のレベルの高さを示す結果となりました。

2021年 香港カップ

ブリーダーズカップでの歴史的勝利からわずか1ヶ月後、ラヴズオンリーユーは引退レースとして香港カップ(G1)に出走しました。ブリーダーズカップからの連戦というタフなローテーションでしたが、彼女は再びその強さを見せつけました。

レースは2021年12月12日、シャティン競馬場の芝2000mで行われ、ここでも鞍上は川田将雅騎手。レースでは、直線で内から力強く伸び、先行馬を捕らえて優勝。この勝利により、ラヴズオンリーユーはブリーダーズカップフィリー&メアターフ、香港カップと、同一年に海外G1を3勝するという日本調教馬初の偉業を達成しました。引退レースでの有終の美を飾るだけでなく、その年の世界最高峰の舞台で輝きを放ち、まさに伝説的な一年に幕を下ろしました。

海外G1・4勝の偉業

ラヴズオンリーユーは、2019年のオークスを含むJRA・G1を1勝。そして2021年の海外遠征において、以下のG1レースを制しました。

これにより、ラヴズオンリーユーは日本調教馬として史上最多の海外G1・4勝(JRA発表は3勝)という輝かしい記録を樹立しました。この偉業は、日本競馬の国際的な地位向上に大きく貢献し、今後の海外遠征における日本馬の可能性を広げるものとなりました。

ラヴズオンリーユーの魅力と後世への影響

その強さの秘密

ラヴズオンリーユーの強さは、その類まれな身体能力と精神力の両面にありました。彼女は、父ディープインパクト譲りの鋭い瞬発力と、母系から受け継いだ豊富なスタミナを併せ持っていました。これにより、どんなペースのレースにも対応でき、瞬発力が求められる日本の高速馬場から、力のいる海外のタフな馬場まで、あらゆる条件下で最高のパフォーマンスを発揮することができました。

また、長期の休養を乗り越え、国内外の厳しい転戦をこなした精神的なタフネスも特筆すべき点です。環境の変化にも動じない落ち着きと、レースでの集中力は、まさに名馬の証でした。

引退後の繁殖牝馬としての期待

競走馬としての現役生活を終えたラヴズオンリーユーは、繁殖牝馬として新たな役割を担うことになります。彼女自身がディープインパクトの傑作であり、母系も一流という血統背景を持つため、その産駒には大きな期待が寄せられています。世界最高峰の舞台でG1を制した彼女の血を、次世代へと繋ぐことは、日本競馬の未来にとって非常に重要な意味を持ちます。

彼女の成功体験は、単なる勝利に留まらず、日本馬が世界で戦うためのモデルケースとなりました。産駒がどのような活躍を見せるのか、今から多くの競馬ファンが注目しています。

日本競馬史における位置づけ

ラヴズオンリーユーが残した功績は、日本競馬史において非常に大きく、その後の流れを大きく変えるものでした。彼女がブリーダーズカップを制したことは、単に日本馬がアメリカで勝ったという事実以上に、日本競馬が国際的なレベルで通用することを改めて証明しました。

これにより、日本の生産者や馬主、調教師たちは、より積極的に海外の最高峰レースを目指すようになり、日本馬の海外遠征への意識を高めるきっかけとなりました。ラヴズオンリーユーは、「世界で勝つ」という目標を具体的に示し、その扉を大きく開いた一頭として、永遠にその名を語り継がれるでしょう。

まとめ

ラヴズオンリーユーは、無敗のオークス馬としてデビューし、故障を乗り越えて国内外のG1で活躍しました。特に2021年には、ブリーダーズカップフィリー&メアターフ、香港カップを制し、日本調教馬として史上初の海外G1・4勝(JRA発表3勝)という偉業を達成しました。その血統背景、類まれな身体能力、そして精神的なタフネスは、まさに名馬と呼ぶにふさわしいものでした。

彼女の功績は、単なる記録に留まらず、日本競馬の国際的な地位向上に大きく貢献しました。引退後は繁殖牝馬として、その素晴らしい血統と実績を次世代へと繋ぐことが期待されており、ラヴズオンリーユーが築き上げたレガシーは、今後も日本競馬の未来を照らし続けることでしょう。