デアリングタクトは、2017年生まれの牝馬で、日本の競馬史において非常に輝かしい足跡を残した競走馬です。特に、2020年に史上初となる無敗での牝馬三冠(桜花賞、優駿牝馬、秋華賞)を達成したことでその名を轟かせました。その圧倒的な実力と、困難を乗り越えて走り続けた姿は、多くの競馬ファンに感動を与え、伝説として語り継がれています。
デアリングタクトの競走馬としてのキャリアは、まさに栄光と挑戦の連続でした。特に、デビューから無敗で牝馬三冠を達成した偉業は、日本競馬の歴史に新たな1ページを刻むものとなりました。
デアリングタクトは、2019年11月10日、京都競馬場の芝1600m新馬戦でデビューを飾りました。この初戦を快勝すると、続く2020年2月15日のエルフィンステークス(L)でも、後方から強烈な末脚を繰り出し、見事に勝利。この段階で、クラシック戦線における有力候補として、大きな注目を集めることになります。
デアリングタクトの無敗三冠達成は、メジロラモーヌ、スティルインラブ、アパパネ、ジェンティルドンナ、アーモンドアイといった歴代の三冠牝馬の中でも、デビューから一度も負けることなく達成したという点で、まさに歴史的な偉業でした。この記録は、彼女の類稀な才能と精神的な強さ、そして鞍上・松山弘平騎手との強い絆によってもたらされたものです。
無敗の三冠牝馬として頂点に立ったデアリングタクトでしたが、その後は故障との戦い、そして復帰への道のりが彼女の競走馬人生を彩ることになります。
三冠達成後、デアリングタクトは古馬の強豪が集うジャパンカップ(G1)に挑戦。アーモンドアイ、コントレイルといった世紀のライバルたちと激突し、優勝したアーモンドアイ、2着のコントレイルに続く3着と、牝馬三冠馬としての実力を十分に示しました。しかし、翌2021年の始動戦となった金鯱賞(G2)では2着、宝塚記念(G1)でも3着と惜敗が続き、無敗記録は途絶えました。
2021年、デアリングタクトは日本馬として初めてドバイターフ(G1)に出走し、世界の大舞台に挑みました。結果は4着と健闘しましたが、帰国後に左前肢の繋ぎ部分に屈腱炎を発症していることが判明。この診断は、日本の競馬界に大きな衝撃を与え、デアリングタクトは長期休養に入ることになります。屈腱炎は競走馬にとって致命的な故障の一つであり、復帰が難しいケースも少なくありませんでした。
屈腱炎からの復帰は非常に厳しい道のりでしたが、デアリングタクトは関係者の献身的なケアと自身の強い生命力によって、奇跡的な回復を見せます。およそ1年半の休養を経て、2022年11月13日のエリザベス女王杯(G1)で復帰。結果は6着でしたが、長期休養明けとしては内容のある走りを見せ、その底力の一端を示しました。
そして、その年の暮れ、12月25日の中山競馬場で行われた有馬記念(G1)が、デアリングタクトのラストランとなりました。ファン投票で上位に選出された彼女は、日本のトップホースたちを相手に善戦しましたが、結果は9着。勝利で有終の美を飾ることはできませんでしたが、故障を乗り越えて再び大舞台で走る姿は、多くのファンに勇気と感動を与えました。
有馬記念後、デアリングタクトは惜しまれつつ現役を引退。その競走馬人生に幕を下ろしました。
引退後は北海道安平町のノーザンファームで繁殖牝馬として繋養されています。無敗の三冠牝馬という輝かしい実績と、優れた血統を持つデアリングタクトには、繁殖牝馬としても大きな期待が寄せられています。その産駒がいつの日かターフで活躍し、母の偉大な血を受け継ぐことを多くの競馬ファンが心待ちにしています。彼女の遺伝子が、未来の日本の競馬を担う名馬を生み出すことは間違いないでしょう。
デアリングタクトの類稀な才能は、その優れた血統背景によっても支えられていました。父、母、そして母の父にわたる血脈は、彼女の競走能力に深く影響を与えています。
デアリングタクトは、父に日本のトップサイアーであるエピファネイア、母の父には日本競馬の父と称されるサンデーサイレンスの血を引くディープインパクトの娘を持つという、まさに現代日本競馬の主流血統の結晶と言える配合で誕生しました。
母の父であるディープインパクトは、史上2頭目の無敗三冠馬であり、種牡馬としても前例のない成功を収めた歴史的名馬です。そのディープインパクトの血を引くデアリングバードが母であることは、デアリングタクトの持つ切れ味や勝負根性、そして類稀な勝負強さに大きく貢献したと考えられます。また、母の母にあたるデアリングハートも重賞勝ち馬であり、その血筋は優秀な牝系として知られています。このような配合が、デアリングタクトの持つスピード、スタミナ、そして精神的な強さという、競走馬として必要なすべての要素を高水準で備えることに繋がったのです。
デアリングタクトは単なる名馬としてだけでなく、日本の競馬界全体に大きな影響を与え、新たな時代の幕開けを告げる存在となりました。
デアリングタクトが無敗の牝馬三冠を達成した2020年は、同じく無敗で牡馬三冠を達成したコントレイルも誕生し、「無敗の三冠馬」が2頭も同時に現れるという、まさに空前絶後の年となりました。これは、日本競馬のレベルが世界的に見ても非常に高い水準に達していることを示し、国内外の競馬ファンに大きなインパクトを与えました。
特に、牝馬が牡馬と同等、あるいはそれ以上の注目と評価を集めるきっかけを作った点でも、デアリングタクトの功績は大きいと言えるでしょう。彼女の活躍は、牝馬路線の重要性を再認識させ、今後の牝馬の活躍に期待を抱かせるものとなりました。
デアリングタクトの走りは、その圧倒的な強さだけでなく、見る者の心を惹きつける魅力に溢れていました。特に、桜花賞で見せた不利を跳ね返す勝負根性、オークスでの優雅で力強い走り、そして秋華賞での歴史的プレッシャーを跳ね除けた粘り強い勝利は、多くの競馬ファンの脳裏に深く刻まれています。
また、屈腱炎という大病を乗り越え、再びターフに立つまでの道のりも、人々に感動を与えました。彼女の復帰は、単なる競走馬の復帰ではなく、困難に立ち向かうことの尊さ、希望を諦めないことの大切さを教えてくれるものでした。松山弘平騎手とのコンビも、ファンにとってはデアリングタクトの代名詞となり、彼らの織りなすドラマは多くの共感を呼びました。
デアリングタクトは、史上初の無敗牝馬三冠という輝かしい記録を打ち立て、その競走馬としてのキャリアを通じて、日本の競馬史に深くその名を刻みました。彼女の圧倒的な強さ、故障からの奇跡的な復活、そしてファンを魅了したドラマチックな走りは、多くの人々に夢と感動を与えました。
現役引退後は、繁殖牝馬として新たな役割を担い、その優れた血統は未来へと受け継がれていきます。デアリングタクトの産駒が、母の偉大な才能を受け継ぎ、新たな歴史を築くことを期待する声は尽きません。彼女が生涯で成し遂げた功績は、これからも語り継がれるべき伝説として、日本の競馬界に永遠に輝き続けることでしょう。