カレンブーケドールとは?

カレンブーケドールは、日本の競馬史において「善戦ウーマン」の異名で多くのファンを魅了した競走馬です。特にG1レースでの惜敗が多く、その健気な走りは人々の記憶に深く刻まれました。父に大種牡馬ディープインパクト、母にソルティビッドを持つ良血馬として誕生し、芝の中長距離路線で常に上位争いを繰り広げました。本記事では、カレンブーケドールの競走馬としてのキャリア、血統背景、そして彼女が残した功績と、繁殖牝馬としての未来について詳しく解説します。

競走馬としての基本情報と血統背景

カレンブーケドールは、2016年5月10日に北海道安平町のノーザンファームで生まれました。父は七冠馬であり、多くのG1馬を輩出した偉大な種牡馬ディープインパクト、母はアイルランド生産のソルティビッドという血統です。馬名の「カレン」は冠名、「ブーケドール」はフランス語で「金のブーケ」を意味し、馬主の鈴木隆司氏が所有するカレンシリーズの一頭として命名されました。栗東の国枝栄厩舎に所属し、主に美浦トレーニングセンターを拠点に調整が行われました。

卓越した血統が示す潜在能力

父ディープインパクトは、ご存知の通り無敗の三冠馬であり、種牡馬としても前例のない成功を収めた名種牡馬です。ディープインパクト産駒は総じて芝の中長距離で活躍し、瞬発力に優れる傾向があります。カレンブーケドールもその特性を色濃く受け継ぎ、特に直線での伸び脚は見事なものがありました。

母ソルティビッドは、現役時代に未出走で引退したものの、その血統背景には優れたスタミナと底力を持つ欧州の血が流れています。祖母のシーザースターは愛オークス勝ち馬であり、その全弟には凱旋門賞馬ホークパスがいるという、非常に優秀な牝系出身です。このような血統背景は、カレンブーケドールがタフなレースで安定した成績を残せた要因の一つと考えられます。

馬体は比較的コンパクトながらも均整が取れており、しなやかな筋肉を持つことで、芝の高速馬場から力の要る馬場まで幅広く対応できる適応力を持っていました。

輝かしい競走成績と主要なレース

カレンブーケドールは2歳時の2018年10月にデビュー。新馬戦こそ2着に敗れたものの、未勝利戦で初勝利を挙げると、その後も順調にキャリアを重ねていきました。

G1戦線での奮闘

彼女の競走馬としての真価が発揮されたのは、3歳クラシック戦線からです。特に牝馬三冠の第二戦、優駿牝馬(オークス)では、後に史上初の芝G1・9勝を達成する怪物アーモンドアイに次ぐ2着と好走。このレースでは、アーモンドアイから1馬身3/4差をつけられたものの、自身の能力の高さと長距離適性を証明しました。

その後もG1レースでは常に上位争いを演じ、そのほとんどで掲示板(5着以内)を確保しています。

特に2019年のジャパンカップでは、G1馬多数を相手に2着を確保。続く2020年のジャパンカップでは、三冠馬アーモンドアイ、コントレイルという歴史的名馬2頭と激戦を繰り広げ、3着に入りました。これらのレースは、彼女がトップレベルの馬たちと互角に戦える実力を持っていたことを雄弁に物語っています。

重賞勝利と安定した走り

G1での惜敗が目立つ一方で、G2、G3では確実に結果を残しました。

これらの勝利は、彼女の安定した能力と、G1レベルのタフな馬場での適応力を示しています。特に2020年のオールカマーでは、牡馬相手に堂々たる勝利を収め、その実力を改めて証明しました。どのレースにおいても、派手さこそないものの、常に着実に伸びてくる脚は、多くのファンに強い印象を与えました。

「善戦ウーマン」としての評価とその魅力

カレンブーケドールが競馬ファンから愛された最大の理由は、その「善戦ウーマン」としての側面です。G1レースでの2着が3回、3着が1回、4着が2回と、常に勝利にあと一歩のところで手が届かない、もどかしいながらも健気な姿は、多くの人々の共感を呼びました。

なぜ彼女はこれほどまでに「善戦」したのでしょうか。その要因としては、主に以下の点が挙げられます。

これらの要素が複合的に作用し、カレンブーケドールは「あと一歩」の壁に跳ね返されながらも、常にトップレベルで走り続けるという、稀有な存在となりました。その走りは「惜しい」という感情だけでなく、「よく頑張った」という温かい拍手をファンから集め、彼女の引退時には多くのファンがその功績を称えました。

陣営も彼女の頑張りを常に評価していました。特に国枝栄調教師は「本当にいい子で、いつも一生懸命走ってくれた」とコメントし、その真面目な気性を高く評価しています。鞍上を務めたジョッキーたちも、彼女の素直で前向きな走りに対して信頼を寄せていました。

引退、そして繁殖牝馬としての未来

カレンブーケドールは、2022年4月2日に阪神競馬場で行われた大阪杯(G1)の出走を最後に現役を引退しました。このレースでは9着に敗れましたが、引退式では多くのファンが見守る中、無事に競走馬生活に幕を下ろしました。通算成績は21戦4勝。G1勝利こそありませんでしたが、G1で2着3回、3着1回を含む数々の好走は、彼女の能力の高さと、タフネスを何よりも示しています。獲得賞金は5億5千万円を超え、G1未勝利馬としては異例の金額を稼ぎ出しました。

繁殖牝馬としての期待

引退後は、北海道安平町のノーザンファームで繁殖牝馬として新たなキャリアをスタートさせました。彼女に対する繁殖牝馬としての期待は非常に大きく、その理由は優秀な競走成績だけでなく、その卓越した血統背景にあります。

父ディープインパクト、母父がサドラーズウェルズ系の母系を持つカレンブーケドールは、様々な種牡馬との配合の可能性を秘めています。特に、ディープインパクト牝馬は繁殖牝馬としても非常に優秀な実績を残しており、これまでの傾向から見ても、産駒が活躍する可能性は高いと目されています。

具体的には、スピードとパワーを兼ね備えた血統の種牡馬、あるいは欧州のタフな血統を持つ種牡馬との配合が考えられます。初年度産駒は2023年に誕生し、将来の活躍が待たれます。彼女がG1で手が届かなかった栄光を、産駒が掴むことを多くのファンが願っています。

初年度の種付け相手には、2021年の皐月賞と天皇賞(秋)を制したエフフォーリアが選ばれました。エフフォーリアもまたディープインパクト系のキンカメ産駒であり、スピードと底力を兼ね備えています。この配合からは、芝の中距離路線で活躍する馬が誕生する可能性が高いと期待されています。

カレンブーケドールは、G1タイトルこそ手にできなかったものの、その堅実な走りと、常に強敵に立ち向かう健気な姿で、多くの競馬ファンの心に深く刻まれた一頭です。彼女の競走馬としてのキャリアは、決して派手ではありませんでしたが、その安定感とタフネスは、まさしく「名馬」と呼ぶにふさわしいものでした。そして今、彼女は繁殖牝馬として、新たな夢を繋ぐ役割を担っています。カレンブーケドールの血が、未来の日本の競馬シーンを彩ることを期待してやみません。